こんにちは、
夏の終わりをいかがお過ごしですか。
先週末NAKISURFショールームで実施していた
「創作かき氷」ですが、
いくつかのアイディアが出たのでここに。
甘い桃
すいか
あんず
マンゴー
をそれぞれ蜂蜜、または黒糖で2〜3日漬けて、
それを凍らせたものをかき氷とする。
というのはどうでしょうか?
水を含まず果実だけのかき氷。
白玉などをのせたら色もきれいでおいしそうですね。
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さて、こちらは今日も曇天のスタート。
内陸は良く晴れているのだが、
マリンレイヤーと呼ばれる夏の湿気が海から拡がっています。
波情報によるとまた膝波報告だが、
信じずにソルトクリークに行くことにした。
途中でIさんから連絡があり、
駐車場で合流することとなりました。
「ラグナ側、メイン歩道のそばのPCH寄り」
と言うだけであの広い駐車場で同じ場所に駐車できる。
俺はフィンレスビーターで、
Iさんはトモボードとマットというお互いに奇天烈を競うようなクイバー。
坂を降りてみると、
波が昨日の倍ほどあって、
さらにはグラブルズでタイちゃんが長いミニバレルを抜けてきた。
ものすごくいい波であります。
「ああ、フィン付きのボードを持ってくればよかった」
俺のそんな胸の内を察したのか、
Iさんが、
「ぼくはボディサーフするので、このボードを使ってください」
とトモボードがやってきた。
パドルアウトしてタイちゃんに
「波いいね〜」と言うと、
「昨日はもっと良かったノデス」
と返ってきた。
そうか、風波だから朝が良かったのですね。
そんなこんなでミニバレルを何本か抜けてマンライ・フィーバー。
カメみたいなシェイプに乗っていたタイちゃんとボードを交換して、
さらにはIさんともボードを替えて、
新しいボードデザインのアイディアを得た。
さらにはオリジナルアイディアであるビーターフィンレスで乗って、
最後にはボディサーフで締めくくった。
そんなすばらしいセッションでありました。
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【注意】
ここから長いサーフボード製作の話が始まります。
ご興味がなければ、最後まで進まれるか、
昔のブログから「宇宙の大きさ編」にどうぞ。
https://www.nakisurf.com/blog/naki/archives/1715
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【銘職人デイブ・ネイラー】
先日行ったドッキーの工場で、
「CANVASとNATIONのグラッサーは誰デスカ?」
とドッキーに聞かれた。
「デイブですよ」
「WOW!デイブ・ネイラーか!」
「そうです、ネイラーです」
「やはりそうでしたか、
あのレベルのボヘミアンラミネートは彼しかできないと思っていマシタ」
「かなりの腕ですよね」
「あの界隈、いやアメリカで間違いなくトップの職人です」
デイブ・ネイラー(Dave Naylor)
故郷イギリスでサーフボード作りを始めたのは25年前。
その後オーストラリアに渡り、
テリー・リチャードソンに師事し、
サーフボード作りを極めたいと、
1992年カリフォルニアにやってきて今に至る。
職人は工場を渡り歩くというのは本当で、
いくつものファクトリーを通過したデイブは、
キャンバスとネーションの工場を見つけて今に至る。
「ここはね、俺がベストだと思う素材を使わせてくれるんだ」
「それは道具ですか?」
「いや、道具はどちらにしても自分持ちなんだけど、樹脂やクロス、
硬化剤に至るまで自分の希望をかなえてくれるのはここだけなんだよ」
「そんなに違うのですか?」
「昔は樹脂メーカーは一社だったけど、
最近は韓国の樹脂やクロスがやってきて、
多くの工場はそれを使い始めている」
「何が違うのですか?」
「まずは値段。そして粘りと耐久性。
あの樹脂は時間が経つと茶色くなるんだ」
「それだったら工場はいい素材を使えばいいのではないでしょうか?」
「やはりビジネスには、材料の価格は重要だという考えさ。
安ければそれだけ利益が出るからね。
計算上はそうだけど、メーカーは自分のボードに誇りを持ったほうがいい」
「そう思います」
「長い目で見れば、そんなボードを作って売るよりも、
良い物を作ったほうがメーカーは長生きできるのに。
良いボードは量販店で売ることができる量を作ることはできないものさ。
さあ、作業を続けようか」
「作業の合間でいいので話を聞かせてくださいね」
「もちろん」
デイブの手入れの行き届いた道具。
これだけでも彼が名工だということがわかる。
オーダーカードを見て、
クロスを美しくシェイプされたブランクスの上にふわりと落とす。
そのクロスはハサミでボードの形に切り出され、
いくつかの重要な切れ込みが入れられた。
テイルパッチの指示があり、
そして、樹脂がデイブのカップに注がれた。
「これはなんという樹脂ですか?」
「シルマーS249Aラミネートレジンです。
これが現行ではベストなんだよ」
「硬化剤はノロックス925とのマッチングがいいね」
「これにも種類があるのですね」
「そうなんだ。最近の工場の多くは安い900を使っているけど、
925が間違いなくダントツなんだよ」
「硬化剤なんて量を使わないから高くても良さそうですけど」
「だけど金額を見たら工場長は安いのを買ってしまうものさ」
「そうなんですね」
スクイージ(ヘラ)も自作しているデイブ。
ゴム片を薄く自分の形にシェイプして、
さらには2週間アセトン液の中に漬けて軟化させてから使用しているという。
だからこんなに柔らかく粘る職人道具となっている。
クリスチャン・ワックからの指示も壁の一部と化していて、
そこには「愛」ロゴの上下がありました。
漢字は読めないから、
きちんと入れるための指示書となっているように、
やけに詳細が散らばる職場です。
晴れた日、今日のように湿度のある日と、
硬化剤の量を変えているラミネートレジン。
回されるようにボードに注がれた。
「10分で硬化が始まってしまう」
という時間との戦いでもあります。
「余分な樹脂を落とさない」
というのも名工の証。
ブランクスとクロスを密着させながら、
丁寧にそして的確にスクイージが動いていきます。
クロスのラックA。
上から
D-size Cloth4oz
E Cloth 6 oz
Volan 8oz
ラックB
S Cloth 4oz
Warp Cloth 4oz
E Cloth 6 oz
D-size Cloth4oz
「最近はクロスにも第三国からやってきた
“ホワイトライン・クロス”というのが出回っていて、
半額くらいで買えるのだけど、熱処理してあるので織りも糸も弱いんだよ」
「乗るまで、いや乗ってもわからないですものね」
「そこがビジネスなんだろうな」
「食べものと一緒で良い素材を使うことが、
良いビジネスだという流れになればいいですね」
「それはむずかしいだろう」
デイブはシニカルに笑って、
新しく樹脂を混合して次のボードに取りかかった。
今度は違う種類のスクイージを使っていた。
どうやって使い分けているのかを聞くと、
こちらのボードのほうがフォルムが曲線的なので、
より柔らかいものを使ったのだと言う。
今まで知らなかった巻き職人の世界。
クロスを伝わって落ちる樹脂がもったいなく思える。
むずかしいテイルエリアも、
さらさらと舞うように手が動き、
こうしてテイルに丸められていった。
小さなスクイージも登場。
角が二重になっているのは、
下準備の切れ込みの妙ですね。
さらにもう1本と、
サーフボードがデイブに巻かれていきます。
「ナキ!」
前出のクリスくん(クリスチャン・ワック)がサンディングマンの
ジェイソンを従えて登場しました。
こうして彼は毎日工場にやってきて、
その進行だったり、仕上がり状況を確認しているのです。
クリスくんはデイブ作品を見て、
「スバラシイです!」とか、
「すごい」「完璧」を連発していたのが印象的でした。
それほどまでにデイブの仕事は美しいのです。
2時間後には、
ショートボードの順番までやってきました。
これはネーションですね。
ピグメントとティントの混合ボード。
これをこのように仕上げるのがむずかしいのです。
レイル色の切り替え部分はクロスの違いでもあるので、
ハサミやカッターの使い方が大事なのです。
サンディングを待つボード群の中から、
順番をジェイソンに指示するクリスくん。
工場のいつもの風景です。
□
日が変わって、
今日はカラーボードの作業をするという。
ティントボード群を巻く日です。
まずはこのサンオノフリーから。
ミディアム・ブルーのティント。
俺の字であります。
別名マリンブルーと呼ばれている深い水深風の色で、
人気カラーのひとつです。
↑ノーズ
↓テイル
同様にラップ&カット。
色も全てデイブが混合させています。
カラーは全て細かいフィルターにかけられて樹脂に落とされていく。
ほこり程度の不純物が混ざるだけで、
ボードラミネートには不都合が生じるという。
樹脂と顔料をよく攪拌してから硬化剤を落とす。
顔料を入れたら硬化を早めないと、
色むらの原因になるという。
「カラー系はさらに時間との戦いとなるんだ」
と作業が開始された。
ミディアム・ブルー・ティント。
ティントとピグメントの違いは顔料。
透けるのがティントで、
色が残るのがピグメント(オペーク)。
俺はティントのほうが好きだが、
デイブによると「ピグメントも美しいぞ」ということ。
これがその違いですね。
右がピグメント、左側がティント。
字数もオーバーしているので、
さらに急ぎます。
グラスオンフィンは、
こうしてクリスチャンが用意したものが装着される。
かっこいいフィンだなあ。
今度はロイヤルブルー。
濃い青です。
この色もいい。
巻かれた後はこんな色になりました。
クロス目も出るのでやけに美しい。
ノーズ部はクロスが荒れるので、
注意が必要。
入念に作業するデイブ。
ロイヤルブルーも、
うっとりするほどきれいです。
ボードの表側。
こんな風にラップされているのでした。
完璧な仕上げ。
ラックには、
先週巻いたボヘミアン変形の縦スロッピーストライプが、
「すげえ」と工場員たちの注目を集めていた。
作業に立ち会ってみるとわかりますが、
これだけの色をクロスにつけるのはものすごく大変だったと思います。
時間との兼ね合いもあるし、
「さすがデイブ」と讃えた。
ちなみにこのボードはNAKISURFのカスタムオーダーでした。
シェイパーであるライアン・イングルは、
こまめにこの部屋にやってきました。
それはボードをチェックしていたり、
デイブと次ボードの確認だったり。
道具もプロならではの風合いで、
それら全てが美しく見えます。
これは8オンスのボランクロス。
サーフボード用の最大強度クロスです。
1950年代とほぼ同様の重く、分厚い織り。
薄く緑がかった色が特徴です。
重いボードを作るのならこれ。
次はホットピンク。
デイブが一番好きな色です。
樹脂と混ざると、
なぜだかおいしそうな色に見えてしまう。
ボードに落とされ、
滑るようにカップに戻っていくホットピンクレジン。
美しいです。
こうして床に落ちて、その痕跡を残す樹脂。
他のボードと同様になでられて、
ホットピンクのティントはこの色となった。
やはりおいしそう。
さきほどのミディアム・ブルーの床。
アートですね。
デイブ作品の数々。
□
次に硬化が始まったら、
余計なクロス部分を切り落とします。
これをやらないと、
きれいな切り返しとはならないのです。
レーザーブレードと呼ばれる極薄カミソリを曲げて、
自分用としているデイブ。
それを使って手でアウトラインをなぞっていきます。
切り出すと、
後はこのようにレイルが切り取られていく。
失敗は許されない世界です。
もしミスしてしまうと、
このパートを失うだけではなく、
シェイプからやり直しとなってしまうのです。
長年培った職人技ですね。
このようにカラーボード、
そしてラミネートは今日も行われている。
今度はボヘミアンラミネートに立ち会ってきます。
それでは本当に長くなってしまい、
そしてここまで読んでくださって、
ありがとうございました。
サーフボード製作の魅力をお伝えしようと思って、
ついつい気合いが入ってしまいました。
それにしてもデイブの的確で完璧な作業に
「その世界で生きる」
というすばらしいことを思い知らされました。
銘シェイパーが腕を磨いているように、
彼ら銘職人も毎日土俵に立っているのですね。
それではまた明日ここで!
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